1月28日(日)に開催された「#みんなで貧しくなりたいですか?〜生活保護引き下げに反対する街宣〜」より、当日登壇したひとりである加藤歩(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長)のスピーチを下記掲載します。
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〈もやい〉とは

〈もやい〉は、生活に困窮した方からの相談を、面談・電話・メールなどで年間4,000件受けています。
〈もやい〉にはさまざまな方が相談に来ます。
ネットカフェから仕事に通う若者。
低年金で生活が成り立たなくなった高齢者。
過酷な労働やパワハラでうつ病を患い、仕事を辞めざるをえなくなったあげく、次の仕事が見つからないまま貯金も底を尽きてしまった人。
夫のDVから必死に逃げ出したはいいものの、住まいも仕事も人間関係も手放して来て、生活の基盤を失ってしまった女性。
〈もやい〉に相談に来る人は、相談に来た時点でかなり困窮しています。そこから生活を立て直すには、生活保護しかないという方が多い。
そのため、〈もやい〉では生活保護の申請同行が重要な活動のひとつになっています。
彼らは、生活保護が利用できる状況にもかかわらず、〈もやい〉に来るまで生活保護の利用につながっていなかったのです。

生活保護、捕捉率と漏給

生活保護を利用できる状況にもかかわらず、利用していない人がたくさんいる話をします。
生活保護は、パンフレットにもあるように、憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する制度。
資産や収入が少なく、他のさまざまな制度を利用してもなお、生活保護の基準に満たない場合、誰でも使える制度。
家賃と生活費で、東京で単身世帯なら最大13万円くらい。沖縄だと10万円弱くらい。
必要な人がすべてこの制度を使っているなら、日本に暮らすすべての人は「健康で文化的な最低限度の生活」は送れていることになる。
現在日本で生活保護を利用している人は約212万人。
212万人は多いのでしょうか?
生活保護基準以下で生活する人のうち、実際に生活保護を利用している人の割合は、2~3割程度。7~8割、つまり数百万人の人々が、生活保護を利用できる状況にもかかわらず利用していない。
なぜか?
理由はいろいろありますが、3つだけ紹介します。
ひとつは、制度が知られていないということ。若い人は使えないとか、持ち家があると使えないとか、誤解されていて、多くの人が自分には使えない制度と思っている。だから申請しない。生活保護は自分から申請しないと利用できない制度です。
もう一つの理由は、生活保護への偏見。
生活保護利用者は怠けている、税金で楽をしている、貧困は自己責任、貧困に陥った自分の努力が足りなかったのだ、生活保護は恥だ……。
そういった偏見が利用を妨げている。
最後に水際作戦。役所は申請されたら必ず受理しなくてはいけないのに、窓口で申請させずに追い返すという違法な対応をとる役所があります。
若い人、働ける人は申請できません。
住所のない人は申請できません。
借金がある人は生活保護を利用できません。
これらはすべて間違いです。でもこのような対応のために、申請を諦めている人がたくさんいる。

そんなわけで、生活保護の利用が必要な人が、ちゃんと利用できていない。「健康で文化的な最低限度の生活」が送れていない人がたくさんいるのが日本。

生保引き下げの影響について

引き下げの話。
現在、生活保護基準の決め方は?
生活保護基準は、国民の中で、もっとも所得が低いほうから10%の人たちの生活実態を勘案して、設定しています。つまり今回、国民でもっとも所得が低い10%の人たち、最も貧しい層の生活水準が下がったため、生活保護の引き下げとなったのです。
ここで比較対象とされた人たちの中には、生活保護を使わずに、その基準以下で生活している数百万人も含まれている。
つまり、「健康で文化的な最低限度」を下回った暮らしをしている人をも比較対象にして、生活保護はもらいすぎているから減らしましょうと言っているわけです。

生活保護基準が下がるということは、現に生活保護を利用している人が受け取るお金が減る、というだけではありません。
パンフレットにも書いてありますが、他の制度を利用している人にも影響があります。
それは、それらの制度が、生活保護基準をもとに適用基準を定めているからです。
生活保護基準の引き下げにより、これまで制度を利用できた人が適用基準を満たさなくなり、制度が利用できなくなる場合があります。
たとえば子どもの医療費の減免や就学援助。最低賃金も生活保護基準に影響されます。
住民税の非課税限度額も生活保護基準にならって引き下がり、これまで非課税だった人が課税になるかもしれません。
そうすると、非課税かどうかで負担額などが変わってくる制度にも影響します。たとえば保育料の減免、高額療養費の自己負担限度額の軽減など。
少なくとも40近い制度が生活保護引き下げの影響を受けることがわかっています。
所得の低い層が、健康で文化的な生活を犠牲にして、生活を切り詰めれば切り詰めるほど、生活保護基準も下がっていく。すると、生活保護世帯だけでなく、多くの低所得の人が、使えた制度が使えなくなり、これまで以上に生活を切り詰めなければならなくなる……
それが今起きようとしていることです

〈もやい〉で

〈もやい〉を訪れる相談者には、生活保護利用中の人もたくさんいる。
ある男性は、精神疾患で、服薬が欠かせない。近所づきあいもなく、あまり外出もしないが、週1回、〈もやい〉のサロンに来て350円のランチを食べながら、みんなとおしゃべりするのを楽しみにしている。
彼は、今回の引き下げの話を聞き、「サロンに来る回数を減らすしかないかな」と寂しそうにしていました。
あるいは、娘と二人暮らしの女性。「家電が壊れたときや、冠婚葬祭にそなえてしている月3,000円の貯金をあきらめないといけないかも」「娘の高校受験にそなえていろいろ物入りなので、自分は一日に1食にして頑張っているけど、これ以上削られたらどうしたらいいか……」と訴えていました。
生活保護基準の引き下げは、外出や食費を削るギリギリの生活で人を苦しめるだけでなく、生活の中の小さな楽しみや、人とのつながり、将来社会に出ていく子どもたちの希望も奪ってしまうでしょう。

私の知り合いで、派遣の仕事をしながら手取り月11万円くらいで生活している人がいます。彼女の生活費は6万5千円ほど。もともとは友だちと飲むことが楽しみだったが、今はそんな金銭的余裕はなく、友だち付き合いもほとんどなくなった。
生活保護だと生活費は8万円くらいだと説明すると、「生活保護、そんなにもらえるんだ。いいなあ~」というのが彼女の反応。
みなさん、どうですか。生活費8万円と聞いて、「いいなー」と思いましたか。あるいは「ずるい」と思った人もいるかもしれません。
そして「いいなー」「ずるい」と思った人、「私なんか睡眠時間けずって必死に働いて、食費もけずってだれにも頼らずがんばってる」と思っているかもしれません。
でも本当は、もっと豊かに暮らしたくないですか? ちゃんと栄養のあるものを食べて、ゆっくり寝て、たまには友だちと飲みに行ったり、映画観たり、友だちの結婚式におしゃれして出席したりしたくないですか?
生活保護基準もあげて、最低賃金もあげて、もっと安心して暮らせる社会にしたいと思いませんか?

最後に

〈もやい〉に相談に来た結果、生活保護を申請することになった、そんな彼らがよく口にするのは「まさか自分が生活保護を利用するとは思わなかった」ということ。
さきほどの手取り11万円の彼女も、今は生活保護は自分と関係ないと思っているかもしれません。が、ひとたび病気やケガに見舞われたら、失業してしまったら、どうなるでしょうか。
老後、年金が少なすぎて暮らしていけなくなったらどうしますか?
頼れるのは生活保護です。
そして、生活保護基準は他のたくさんの制度に影響を及ぼす。だから、多くの人にとって、生活保護引き下げは他人事ではないんです。
でも私がほんとうに問いかけたいのは、私たちがどんな社会に生きたいのかということ。
貧困によって日々不安にさいなまれ、生きる喜びや希望を奪われている人がいても、そこに手を差し伸べないで放っておく社会がいいですか?
私の生きるこの社会は、貧困によって誰も絶望したり悲嘆に暮れたりすることのない社会であってほしい。そして、みんなが安心して希望をもって生きていく権利を、国が責任をもって保障する、そんな社会であってほしい。私はそう願っています。

(認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 事務局長 加藤歩)

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