生活保護法改正法案の成立に反対する緊急声明

2018年6月1日

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい

理事長 大西連

 

私たちは、日本国内の貧困問題に取り組む団体として、生活に困窮された方が生活保護などの社会保障制度を利用するにあたっての相談・支援や、安定した「住まい」がない状態にある方がアパートを借りる際の連帯保証人の提供、サロンなどの「居場所作り」といった活動をおこなっています。

2001年の団体設立からこれまでに、のべ約3,000世帯のホームレス状態の方のアパート入居の際の連帯保証人や緊急連絡先を引き受け、また、生活にお困りの方から寄せられる面談・電話・メール等での相談は、年間4,000件近くにのぼります。

また、私たちは相談の現場において日夜、貧困の現状に直面し、生活困窮者を支援していくなかで、生活保護制度をはじめとする公的な社会保障制度の拡充について提言しています。

現在、国会(第196回通常国会)において、生活保護法改正法案(以下、「改正案」)が議論されています。すでに衆議院では可決しており、本日中にも参議院でも採決が行われると言われております。

この「改正案」は残念ながらいくかの問題点をふくんでおり、このままでの可決成立は多くの生活保護利用者にとって、また、生活保護を将来的に利用する可能性があるすべての人にとって、望ましいものではありません。私たちは、「改正案」の以下の5つの点について反対するとともに、拙速な議論ではなく真摯な生活保護制度について議論がおこなわれることを求めます。

 

進学支援準備金の創設について

「改正案」では「進学支援準備金」を創設し、生活保護家庭の子どもの大学進学に際して自宅から通う場合は10万円、自宅外から通う場合は30万円を支給するとしています。ご承知の通り、現行法、そして現在の制度運用のなかでは、生活保護世帯の子どもの大学進学は原則として認めておらず、進学する場合は「世帯分離」を前提とします。

この「改正案」では、「世帯分離」は維持したまま、進学時に一時金を支給する、というものです。もちろん、これまではそういった一時金は存在しなかったので一部制度が拡充したと考えることはできますが、一方で、「世帯分離」が維持されたままですと、当然ながら進学する子どもの負担は大きく、進学率の向上につながるとは考えられません。野党が提出している対案では「世帯内での就学」が盛り込まれており、「改正案」についても世帯内での就学を可能とする内容に改められることを求めます。

 

後発医薬品の原則義務化について

現行法では後発医薬品については「可能な限り使用を促す」とされていますが、「改正案」では、「原則として後発医薬品による給付をおこなう」と事実上の原則義務化が明記されています。

当然ながら、現行法においても後発医薬品の使用は促進されており、それを今回の「改正案」において、生活保護利用者「のみ」原則義務化するということは、生活保護利用者への明確な差別であると考えます。この「改正案」については強く反対します。

 

法63条の返還債務の非免責債権化と天引きを可能にする改正

これまで63条による費用返還は税金の滞納などと違い強制徴収されることはなかったのですが、「改正案」においては、それを「国税徴収の例により徴収することができる」としています。生活保護利用者への返還請求に関しては当法人にも生活保護利用者からの相談が多く寄せられるのですが、本人に資力がない状態で一括での徴収を求めたりと、各自治体の運用では返還請求を受ける生活保護利用者が最低生活を割り込む恐れを生じさせてしまう事案が多く発生しています。また、そもそも63条による費用返還はいわゆる「不正受給」においての返還とは違い、本人に瑕疵のない返還請求ですから、当然ながら強制徴収などの手段を講じるべきではないでしょう。「改正案」からの削除を求めます。

 

被保護者健康管理支援事業の創設

「改正案」において、生活保護利用者の「健康の保持及び増進を図るため」に「保健指導、医療の受診の勧奨」などをおこなうものとして「被保護者健康管理支援事業」が盛り込まれています。

しかし、現行法および現在の運用においても指導指示等(もちろん、必要最小限の範囲においてであるが)において「検診命令」等がおこなえるわけで、なぜこの事業を創設するのか疑問を感じます。新設の59条に「被保護者の年齢別及び地域別の疾病の動向その他」の調査分析についての記述がありますので、被保護者の疾病の動向等を把握したいという思惑があるのだろうと考えますが、この「被保護者健康管理支援事業」は、生活保護利用者のためというよりは、自治体側の都合による事実上の指導指示の権限の強化につながるおそれがあります。

 

日常生活支援住居施設の創設

これは、いわゆる「貧困ビジネス撲滅」のために「良い施設」をそうでないものから区別し、生活保護制度のなかに位置づけるものであると考えますが、そもそも生活保護法30条1項において「生活扶助は、被保護者の居宅にて行うものとする」とあるように、アパート等の居宅での保護を原則としています。いわゆる「施設」での保護は、居宅での生活が難しい場合、本人が希望した場合等、限定的なものとされています。

もちろん、現実的には、特にホームレス状態の人の生活保護等においては、残念ながら都市部などでは公的・民間の施設等での保護が常態化しており、なかには「貧困ビジネス」と呼ばれるような劣悪な施設等も存在します。それらを是正していくための「改正案」であるとは理解していますが、ある種の「施設」の機能を強化することは、居宅保護の原則にもとるばかりか、本来はアパート生活に移行できる人を安易に施設に留めてしまうリスクを持ちます。

そして、この「日常生活支援住居施設」の基準は都道府県が条例で定める(省令で標準は定める)とあり、実際の各自治体での運用等においてどのような基準が定められるかなど明らかになっていません。

日常生活に困難がある人の生活をどう支援していくのかは大きなテーマですが、現状では「何をもって日常生活に困難があると判断するか」「誰がどういった専門性でそれを判断するか」など、不明瞭な部分が多いのも問題です。

以上の主に5点の内容について、私たちは大きな懸念をもっております。拙速な審議、議決により多くの生活保護利用者が不利益をこうむることがないように、丁寧な国会での議論を求めるとともに、現在の「改正案」については強く反対いたします。

 

以上

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