生活相談・支援事業担当の結城です。
生活を支えるためのお役立ち情報第11回のテーマは「外国人*1」と生活保護です。
外国人と生活保護については不確かな情報や悪質なデマが多く見られるので、
この記事で整理をしたいと思います。
生活保護の「準用」
生活保護法第1条では「生活に困窮するすべての国民」に対し、
国が最低生活保障と自立の助長をするとされています。
厚生労働省は、ここでいう国民を「日本国籍を有している」者と解釈しています。
しかし、現実には生活保護制度を利用している外国人はいます。
これはどういうことでしょうか?
実は、厚生労働省は外国人については法の適用対象ではないが、
一部の者に対して保護に準じた取扱い(準用)をするという方針をとっています。
この運用の根拠とされているのが昭和29年(1954年)の
「生活に困窮する外国人に対する生活保護の措置について」という
厚生省(当時)の通知です*2。
現状、厚生労働省の考えでは、準用の対象となりうるのは
①永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者、
②特別永住者、③難民認定者とされています。
原則として、これ以外の在留資格を持っている外国人には
保護の準用は行われていません。
なお、準用の対象となるカテゴリーを定めたのは
1990年の厚生省による「口頭指示」とされています。
生活保護制度の「準用」は法の「適用」とどう違うのでしょうか?
「準用」はあくまでも行政措置として行われるもので、
法に基づく権利が認められていません。
そのため、法的な権利を裏打ちする
審査請求という手続きを取ることができません(厳密には却下されます)。
二段階の排除
また、日本国籍を有する人は居所がない場合
「現在地」で申請ができるのに対し、
外国籍の人で住まいがない場合、DV被害などの場合を除いて、
原則在留カード等に記載された自治体でしか申請ができません。
さらに、定住者資格などで在留している場合、
更新に不利になるために生活保護の利用が抑制されるという問題があります。
これらの運用根拠は通知と口頭指示というとても不安定なものです。
また、上記の在留資格を持っていなければ、
日本での居住期間や居住実態に関わらず、
準用の対象からは排除されてしまいます。
国籍と在留資格によって生活保護の対象は二段階で選別されているのです。
無論、国民国家体制の下では、国の立場からすれば
公的扶助の対象を何かしらの形で線引きせざるを得ないでしょう。
しかしながら、定住性が高く、すでにこの社会のメンバーとして
生活している人びとに対して権利を認めないというのが正しいのでしょうか?
また、準用対象に関する現状の線引きは(その決め方も含めて)正当なものでしょうか?
不確かな情報やデマが飛び交う中で、
少し立ち止まって考える必要があるように思います。(結城)
*1「外国人」という言葉は、ここでは「外国籍を持つ人」という意味に限定して使います。
*2最高裁平成26年7月18日判決はあくまでも外国人が法的な「受給権」を持たないと判断しているのであり、「準用」については何ら判断を下していません。
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●前回のQuizの解説
前回はいわゆるゼロゼロ物件(敷金・礼金なし)の場合、
退去時の原状回復費が福祉事務所から支給されるかどうか、
という問題でした。
厚生労働省の見解としては、
「契約時において敷金を支払っておらず(略)、
又は支払った敷金が著しく低額である」ために原状回復費用を請求され、
次の条件のいずれにも当てはまる場合には
「住宅維持費」として支給できることとなっています
(生活保護手帳別冊問答集2024年版問7-117)。
①「原状回復の範囲が、社会通念上、 真にやむをえないと認められる範囲であること」
②「故意・重過失により毀損した部分の修繕ではないこと」
ただし、通常使用によって生じた損耗や経年劣化については
そもそも貸している側の負担で修繕すべきものなので住宅維持費は支給されず、
実際にはかなり限定された範囲が対象です。
ゼロゼロ物件を退去して原状回復費を請求された場合には、
ケースワーカーや賃貸トラブルに詳しい法律家などにご相談ください。