『朝日新聞』2015年5月26日朝刊「簡易宿に定住、なぜ 川崎火災9人死亡」にコメントが掲載されました

『朝日新聞』2015年5月26日朝刊「簡易宿に定住、なぜ 川崎火災9人死亡」に、もやい理事・稲葉剛のコメントが掲載されました。
●元記事→http://www.asahi.com/articles/DA3S11773605.html

【簡易宿に定住、なぜ 川崎火災9人死亡】
川崎市の簡易宿泊所(簡宿)2棟が全焼して9人が犠牲となった火災は、一時的な宿泊先であるはずの場で、生活保護を受ける高齢者らが長年暮らしている現状を浮き彫りにしました。「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する生活保護。住まいのセーフティーネットはいま、どうなっているのでしょうか。

■公営借家、高い倍率

生活保護を受ける世帯数は、今年2月時点で161万8685世帯。この30年間で2倍以上に増えた。高齢者世帯の増加が目立ち、全体の半数近くを占める。

受給者の家賃は「住宅扶助」として支給される。地域や家族の人数ごとに上限となる基準額が決まっている。東京23区で暮らす単身者なら基準額は5万3700円だ。基準額内で払える家賃のアパートなどを受給者が探し、実費が支給されるのが原則だ。

では受給者はどんな住居で暮らしているのか。厚生労働省は昨年、約11万世帯を対象に実態調査をした。持ち家で住宅扶助がいらない人などを除く約9万6千世帯のうち、比較的家賃が安い公営住宅(公営借家)にいる人は2割にとどまり、6割超が民間アパートなどの民営借家だ。公営住宅募集戸数の応募倍率は全国平均で6・6倍、東京都では23・6倍に達する(国土交通省調べ)。受給者にとっても入居のハードルは高いようだ。

無料低額宿泊所や簡易宿泊所で暮らす受給者は約2%。ただ地域差が大きいと考えられる。高度成長期に多くの建設労働者が集まった東京・山谷地区や大阪・釜ケ崎などには簡宿が密集している。横浜・寿地区には約120の簡宿があるが、横浜市によると滞在者の84%が生活保護受給者だという。

居住環境でも課題は残る。健康で文化的な住生活を営むのに必要不可欠な面積として、政府は「最低居住面積水準」を決めている。単身者では25平方メートルだ。厚労省調査によると、これを満たす住居割合は、一般世帯が76%に対し、受給世帯(民営借家)は46%にとどまった。受給者のいる簡宿などは床面積が平均6平方メートルで、狭さが目立った。

こうしたなか政府は7月から住宅扶助の基準額を全体では引き下げる。約4年間で約190億円の国費を削減する方針だ。引き下げ後の住宅扶助額で今の家賃がまかなえなくなる受給世帯は、約44万世帯に達すると見込まれている。一部の受給者が今後、引っ越しなどを迫られる可能性もある。生存権侵害であるとして日本弁護士連合会が引き下げ撤回を求めるなど、批判も強い。

■高齢者入居、拒む業者も

「受給者が10件、20件の物件をあたっても、契約できないことは珍しくない」。東京23区で20年以上、ケースワーカーをしてきた男性(60)は実情をこう話す。

一人暮らしの高齢者の場合、ハードルはさらに高くなる。孤立死して「事故物件」になることを業者が恐れるからだという。

「障害者や高齢者で特に単身世帯であることによる入居拒否の実態が一部に見受けられる」。住宅扶助見直しを検討した厚労省審議会が今年1月にまとめた報告書も、そう指摘した。

2009年。群馬県の無届け高齢者施設「静養ホームたまゆら」で入居者10人が亡くなる火災が発生した。この火災も、犠牲者の大半が東京都内の生活保護受給者だった。身寄りがない高齢受給者が、都外の施設に送られている実態が問題となった。

首都大学東京の岡部卓教授(社会福祉学)は、惨事の背景に「構造的な問題がある」と指摘する。「ケアが必要になってアパートに住めなくなった高齢受給者などは本来、介護施設を利用できるようにすべきなのに空きがない。公営住宅も数が足りない。結果的に行き場のない人が無届け高齢者施設や宿泊所に集まってしまう」

生活保護受給者のアパート入居を支援する認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」(東京都)。理事の稲葉剛さんは「受給者ら低所得の人に人間らしい住まいを確保するため、縦割りとなっている行政の取り組みを一本化するなど支援を強化すべきだ」と話す。

生活保護法30条には、受給者はアパートなど居宅に住んでもらうという原則が明記されている。川崎市の簡易宿泊所にいた受給者について稲葉さんは「『彼らは選んであそこ(簡宿)に住んでいた』ととらえず、(居宅の)原則を実現するための支援が足りなかった結果とみるべきだ」。

生活保護受給者の家賃の上限にあたる住宅扶助の基準額の引き下げについても稲葉さんは「これまでにも増して、住まいの選択肢は狭まってしまう」と心配している。

(中村靖三郎、久永隆一)

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