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もやいブログ

2018.3.2

おもやいオンライン

「相談者のなかには若者が3割・女性が1割含まれています」丸山里美さんに聞く貧困の変化とこれから

3月21日〈もやい〉相談分析本の出版記念報告会開催!著者の丸山さんインタビュー!

もやいの相談者のなかには、30代以下の若者が3割、女性が1割含まれているという点です。若者の貧困や女性の貧困は、社会的な注目を集めていますが、それらが他の貧困とどのように異なるのか、その特徴を把握することができます。(丸山さん)

日本の貧困問題に最前線で取り組んできた〈もやい〉。 このたび、その相談記録を分析した『貧困問題の新地平』(旬報社)が出版されました。こちらを記念して、2018年3月21日13:30より文京区区民センターにて報告会を開催します。(詳細は本記事下。お申し込みはこちらから)
〈もやい〉が見つめてきた貧困の変化は、一体どんなものだったのでしょうか?
今回は著者のおひとりであり、報告会登壇者でもある丸山里美さん(立命館大学産業社会学部准教授)に、ご自身が取り組まれている「女性の貧困」について、また本書出版の経緯や〈もやい〉へ関わるきっかけなどについてインタビューさせていただきました!(聞き手:結城翼)

丸山里美さんプロフィール
1976年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得認定退学。博士(文学)。現在、立命館大学産業社会学部准教授。共著に『フェニミズムと社会福祉政策』(ミネルヴァ書房 2012)。『ホームレス・スタディーズ』(ミネルヴァ書房 2010)。『女性ホームレスとして生きる──貧困と排除の社会学』(世界思想社 2013)で第33回山川菊栄賞受賞・第3回福祉社会学会学術賞・第5回日本都市社会学会若手奨励賞・第24回橋本峰雄賞を受賞。

①丸山さんの普段の研究や活動について教えていただけますか?

私はおもに女性の貧困について研究しています。大学院生時代には、女性のホームレスについて研究していました。それを『女性ホームレスとして生きる』(2013年、世界思想社)としてまとめて以降、最近では、女性の貧困に関する研究について、以下の3つを中心に取り組んでいます。

第1に、女性の貧困の特徴である、世帯のなかに隠れた貧困を明らかにしようとしています。
そのために、世帯を一体のものと考えず、世帯内部の個人間にある資源の配分の不平等に焦点をあてようとしています。これは、貧困の概念やそれをとらえる方法を見直していくことにもつながります。

第2に、女性を対象とした福祉政策の実態と、そこに見られるジェンダー規範について研究しています。女性を対象とした福祉施策として、長く売春防止法が中心的な機能を果たしてきましたが、今の時代にはそぐわず、さまざまな矛盾が生じています。
そのような矛盾した実態をとらえ、望ましい支援のあり方について考えています。

第3に、売春防止法にもとづいて運営されていた婦人保護施設について、歴史的な資料を整理しています。それを通して、女性の貧困がどのように歴史的に変化してきたのかを検討しようとしています。

〈もやい〉への女性相談も2017年は初めて3割を越えました(写真はイメージ)

②もやいや、あるいはより一般的に貧困問題とかかわるようになったきっかけはなんだったのでしょうか?

貧困問題に関わるようになったきっかけは、大学生のころに、釜ヶ崎の炊き出しに行ったことがきっかけでした。そこで3年間ボランティアをしながら、卒論を書きました。その経験から、女性のホームレスについて研究することになり、その延長線上にあったのが現在の女性の貧困の研究です。その経緯は「マチバリー〜”生きる”を支える人を応援するメディア」のインタビューが詳しくまとめてくださっています。
〈もやい〉に関わるようになったのは、〈もやい〉のスタッフの方が寄せられる生活相談の相談票を整理したいとつぶやいているのを耳にしたことがきっかけです。それで、ぜひその整理をさせてほしいとお願いしました。

③『貧困問題の新地平』の出版に至った経緯について教えていただけますか?

もやいは、日本でもっとも有名な貧困者支援団体といってもいいでしょう。ネットカフェ難民や派遣村など、貧困問題に対する人々の認識を変化させた存在も、本書の8章の対談で湯浅誠さんが語っているとおり、もやいの活動が最先端となってその問題や必要性がとらえられていったといっていいと思います。そのため、もやいにどのような相談が寄せられているかを明らかにすることは、現在の日本が直面している貧困の形を明らかにすることになると考えました。

もやいに寄せられた相談票の分析は、2014年に報告書の形でまとめたのですが、より多くの人に届く形にしたいと考えました。もやいがどのような貧困をとらえてきたのかをまとめ、社会に発信することは、もやいのような団体の社会的責任であるとも思います。それで、より最近の相談票のデータを追加して、本として出版することにしました。

『貧困問題の新地平』(旬報社)

④この本の特色はなんでしょうか?

この本は、もやいに寄せられた相談票を量的に分析したものがメインであるため、少しとっつきにくいところがあるかもしれません。ですが、以下の4つの点で重要だと考えています。

1つには、この本のもととなる相談票が2004年から2015年のものをカバーしているため、この期間に貧困の形がどのように変化したのか、していないのかをとらえることができるという点です。ただし、相談票の数が増えるのが2007年以降ですから、変化を追えるのは、実質的には2007年~2015年の9年間となっています。

2つめに、もやいには、ネットカフェ難民や居候をしている人など、野宿者にとどまらない広い意味でのホームレスの人からの相談が寄せられているという点です。こうした人々は見えにくい存在ですが、もやいの相談票を分析することを通して、その姿の一端をとらえることができます。

3つめに、もやいの相談者のなかには、30代以下の若者が3割、女性が1割含まれているという点です。若者の貧困や女性の貧困は、社会的な注目を集めていますが、それらが他の貧困とどのように異なるのか、その特徴を把握することができます。

4つめに、もやいの相談者には、一度は生活保護などの公的支援を受けたにもかかわらず、それが途切れた状態で相談に来る人が3割含まれているという点です。こうした人々の経験から、なぜ公的支援が生活の安定につながらなかったのか、現在の制度にどのような問題があるのかを検討することができます。

⑤実際に分析し編集・執筆をする過程で一番印象に残ったことは何でしょうか?

私が担当した女性の相談の分析では、当初の予想を大きく裏切る結果が出ました。女性は一般的に、男性よりも貧困であると考えていたのですが、もやいの相談者に限っては、男性に比べて女性の方が、より生活が安定した人が来ていたのです。本書の6章「女性の相談の特徴」では、その理由を考察しています。

また、一度は生活保護などにつながったにもかかわらず、それが廃止になった人が相談者の3割と、多くを占めていたことも印象的でした。その理由は、本書の8章「繰り返される支援」で考察されていますが、「失踪・辞退」という、本人の意志でそれを選んでいると解釈されるようなものが多数を占めていました。
しかしその背景には、公的支援の利用の際に施設への入所が求められることが多く、それゆえにトラブルが生じやすくなっていることがあります。

丸山里美さん(立命館大学産業社会学部准教授)

⑥この本の作成を踏まえて、今後の研究や活動の展望をお聞かせください。

この本では、もやいの相談票の量的分析を中心にしましたが、ひとつひとつの事例をより丁寧に検討していくことで、さらに汲み取れることがあるかもしれないと考えています。
また最近では、貧困に直面している女性たちとして、性産業ではたらく人や、非正規雇用のシングル女性の存在がとりあげられることが増えていますが、そうした人たちも含めて、女性の貧困の全体像をつかめるように、今後も研究に取り組んでいきたいと考えています。(了)

丸山さんも登壇される出版記念報告会の概要はこちら

日時

2018年3月21日(水) 13:30~16:00 (開場13:00)

会場

文京区 区民センター 2A会議
(東京都文京区本郷 4‐15‐14)
都営三田線・大江戸線「春日駅A2出口」徒歩2分 東京メトロ丸ノ内線「後楽園駅4b出口」徒歩5分 都バス(都02・都02乙・上69・上60)春日駅徒歩2分
http://www.city.bunkyo.lg.jp/gmap/detail.php?id=1754

参加費・定員

参加費:無料
定員:150名

お申込方法

こちらの応募フォームから

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSdGQdmBZpDv6IDgfEw7Pb0gJroOO016WKzmbs4VP6beKY-EHw/viewform

FAXまたはメールから

FAX(03-6265-0307)またはメール (info@npomoyai.or.jp)でお名前とご 参加希望の旨をお知らせください。

当日の書籍販売について

当日会場では直接の販売はいたしませんんが、お越しいただいた方で購入申し込みをしていただいた方は、後日2割引の価格で販売させていただきます。(旬報社よりの発送となります)
〈もやい〉が編集協力した『貧困問題の新地平』が出版されました!(結城翼)2018.2.2

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