認定NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい

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もやいブログ

2025.12.23

おもやいオンライン広報・啓発事業

厚労省へ「生活保護制度の改善および適正な実施に関する要望」をおこないました

〈もやい〉では、例年、この時期に、厚生労働省に対して、
「生活保護制度の改善および適正な実施に関する要望」をおこなっています。
生活保護制度の運用や制度のあり方について、
相談支援の現場から見えてきたことを中心にまとめ、
政府に対してその改善等を求めて要望するものです。

今年は、8月27日に要望書を提出しました。
要望書は大部なもので、A4で32ページ、文字数で言うと4.8万字に及びます。
これまでの〈もやい〉での支援の蓄積や見えてきた課題をベースに
専門的な内容にも踏み込んだものとなっています。
また、生活保護制度の原理・原則に関する内容から、
細かな実務的な内容にいたるまで、多岐にわたる包括的な内容となっており、
〈もやい〉から政府への提言書という性質もあります。

この要望書は〈もやい〉単独で提出しているものでもあり、
〈もやい〉の生活保護制度に対する基本的なスタンスを表したものにもなっています。
今年の要望書の構成としては、重点項目として5項目8点の要望内容、
一般項目として25項目75点の要望内容としました。

生活保護の制度の運用や詳細については、
さまざまな論点があり、制度や実施要領等の改訂にいたるテーマもあれば、
なかなか制度改正につながらない論点もあります。

重点項目ではその年に特に取り上げたい点を配し、
一般項目では、制度改正にいたっていない長年の課題等を多く盛り込んでいます。

今年の重点項目は下記の5項目です。

・物価高、光熱費等の上昇への対応としての生活扶助費の引き上げおよび、2025年6月27日の保護費の減額処分を取り消す最高裁判決について
・地方公共団体により定期的に支給される金銭の収入認定について
・入院患者日用品費について
・世帯分離して就学していた家族の収入が増えると保護廃止になることについて
・葬祭扶助基準について

上記の点のすべてを解説するのは紙幅の関係でできないので、
いくつかについて、簡単にご紹介します。

物価高対策について

ここ数年、物価高やコメの価格の上昇など、
多くの方が暮らし向きの厳しさを感じているのではないかと思います。
実際に、毎週土曜日の新宿都庁下での食料品配布に来られる方は、
2025年6月7日に過去最多となる840人に達しました。

食料品や生活用品の価格上昇は待ったなしでおこなわれていますが、
現時点で生活保護利用者の暮らしの基準となる生活扶助基準は大きく上がることはありません。
2019年当時のコロナ禍前の消費実態の水準をベースとした基準額に、
物価高対策としては2025年〜2026年に関しては、
月額1,500円の加算のみ、とされています。
そもそもの基準額が2019年当時のものであり、
ここ数年の急激な物価上昇等を反映したものとなっていないのはもちろんのこと、
加算される金額もあまりにも少なすぎるのではないかと考えます。

〈もやい〉からは、生活扶助基準の再検討にあたり、
物価高騰の状況を踏まえた最新の調査をもとに再検討をおこなうことと、
予定されている2027年以降の再検討を待たずに、
消費生活実態に応じて今般実施されている
臨時的・特例的な対応の加算額の引き上げを検討することを要望しています。
2023年〜2024年は1,000円、2025年〜2026年は1,500円と、
あまりにも低すぎる加算額と思います。政府には早急な対応を求めるところです。

最高裁判決への対応について

そして、生活扶助基準にまつわる項目ということで、要望書では、
2025年6月27日に最高裁において言い渡された、
2013年8月から3回に分けて実施された生活扶助基準の引き下げに係る
「保護費減額処分の取り消し」の判決についても盛り込んでいます。

最高裁判決において処分の取り消しとなった同引き下げは、
2011年から生活保護基準の在り方を検討してきた
社会保障審議会生活保護基準部会の報告書が取りまとめられた後になされ、
厚生労働省独自の手法で算出され、基準部会でも議論が全くなされなかった
2008年から2011年の「物価下落」を反映したとする
「デフレ調整」等を主要な理由として実施されたものです。

本判決では、こうした厚生労働大臣の判断は
「判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、
統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との
整合性の有無等について審査される」という判断枠組み(2012年4月2日最高裁判決)に照らして、
与えられた裁量を逸脱・濫用するものであり生活保護法3条、8条2項に違反して違法と判断しました。

政府が強引に進めた同引き下げについて、
〈もやい〉でも当時、反対の声明を出すなどしてきました。
〈もやい〉に関わる方のなかに、この裁判の原告メンバーになってくれている人もいます。
今回の最高裁判決を勝ち取った全国の1,000人をこえる原告、
そして、弁護団の10年以上にわたる裁判闘争に敬意を表したいと思います。

同引き下げについては、その期間に被保護者であったものはもちろんのこと、
基準額の引き下げによって保護利用にいたらなかった、保護廃止になったもの、
さらには、生活扶助基準等に連動する他の施策等の対象となるものなど、
数百万人にもおよぶ影響があることが想定されます。

政府は、社会保障審議会生活保護基準部会に
「最高裁判決への対応に関する専門委員会」を設置し、
8月13日にその会合を開催するなど、対応の検討を始めていますが、
そういった検討の前に、まず、少なくとも、同引き下げの判断について、
判決をふまえ、原告及び生活保護利用者等に対して、
真摯な謝罪をおこなうべきであると思います。

〈もやい〉の要望としては、早期な謝罪と補償、
そして、なぜそのような引き下げの判断にいたったのかの
反省と検証について求めることを記載しています。

地方公共団体により定期的に支給される金銭の収入認定について

コロナ禍以降、物価高騰への対応もふくめて、さまざまな給付金が支給されてきました。
コロナ禍初期に実施された10万円の給付金のような大規模なものもあれば、
非課税世帯向けなど対象を限定したもの、子育て世帯向けのもの、などさまざまです。

また、政府が主体となって実施するものと、
自治体ごとの判断や予算によっておこなわれるものと、
主旨や予算の出どころなどによって、違いがあります。

一般的にこの間政府の主導でおこなわれている給付金等については、
その目的や主旨が低所得者対策であることから、
生活保護利用者については収入認定除外の扱いとされてきました。

しかし、自治体独自に、政府からの交付金等を活用せずにおこなう給付金については、
原則として1人につき8,000円以内の額については収入認定をしないという扱いになっています。
また、この扱いを定めた次官通知第-8-3-(3)-ケは
「心身障害児(者)、老人等社会生活を営むうえで特に社会的な障害を有する者」
と対象を規定しており、当該項目には「子育て世帯」「ひとり親世帯」を
対象として支給される金銭は含まれていません。
〈もやい〉からの要望としてはこの点を是正することを求めています。

入院患者日用品費について

入院中の生活費について定めた「入院患者日用品費」ですが、
都内では基準額は23,110円となっています。
そして、入院期間が1か月以上になると、
例えばすでに翌月分の生活扶助費等が支給されていた場合は、
一般的には過誤払金として返還請求がなされることになります。

入院期間中は、給食等があったとしても、
衛生用品や着替え、消耗品等の支出はもちろんのこと、
自宅の光熱水費や携帯代など、さまざま出費がかかります。
物価高の時代にこの基準はあまりにも低いものです。

〈もやい〉では入院患者日用品費について、
その基準額を引き上げるよう、要望項目としました。

この要望内容については、
実は、もやい結びの会のメンバーからのお手紙をもとに起草しました。
実際に入院生活のなかで、入院患者日用品費の低さで
苦労されていた経験を教えていただき、
上記のような要望内容として提言につなぐことができました。

おわりに

紙幅の関係で要望書のほとんどの論点について紹介することはできませんでしたが、
〈もやい〉の要望書は現場から見えてきた課題、テーマをもとにまとめています。
多くの方の「声」をベースに要望項目がうまれています。

現場から見えてきた課題を可視化し、言語化し、
政策の改善を目指してみなさまと一緒に声をあげていくことを
これからも全力でおこなっていきたいと思います。(大西)

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