認定NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい

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もやいブログ

2019.6.24

政策提言・オピニオン広報・啓発事業

パブリック・コメントに〈もやい〉として意見を提出しました!:「無料低額宿泊所の設置及び設営に関する基準案」の問題点

現在、厚生労働省では生活保護法や社会福祉法などの改正に合わせ、「社会福祉住居施設」を新たに設置する準備を進めています。とくに、無料低額宿泊所の最低基準を定める省令案が6月7日(金)に公開され、7月6日(土)までパブリック・コメントを募集しています。

この度、〈もやい〉ではこの省令案について、厚生労働省に対し、意見を提出しました。

意見の全文は本記事の末尾もしくはこちらでお読みいただけます。本記事では、〈もやい〉が提出した意見の一部について、詳しく紹介したいと思います。

先に全体的なことを述べておくと、この省令案は全体として施設運営者の都合に合わせていると思われる一方で、入居者の権利や尊厳のある生活の保障に配慮したものとは言えないと思います。以下では、「居室の床面積」「利用者のプライバシー」「金銭管理」の3つに着目して解説したいと思います。

 

居室の床面積について(第十二条、附則第二条および第三条)

この省令案の第十二条では、無料低額宿泊所の居室の床面積について、7.43平方メートル以上、地域の事情によっては4.95平方メートル以上と提示されました。重要なのは、これの経過措置についての文言です。

附則第三条第一項において、現存する施設の居室床面積については一定の条件を満たせば「当分の間」そのままでよいとされています。一体「当分の間」とはどれくらいのことを指しているのでしょうか?

また、床面積の基準を満たしていない場合、都道府県との協議の上で改善について計画を作成することが求められており、附則第三条第二項では、この計画にもとづく改善が「図られない限り、新たな居室の増築はできない」とあります。しかし、改善を「図」りさえすればよいのであればこの規定に意味はありません。また、「新たな居室の増築はできない」ということは、改善を図っていなくても施設を運営し続けてもよい(図ってさえいれば増築できる)と解釈できてしまうのではないでしょうか?

以上の点を踏まえると、居室の床面積の基準について明文化されたといっても、附則によって、骨抜きにされているのが実情のように思います。実効性のある基準にし、利用者の権利を守るために、これらの条文について抜本的な見直しが必要です。

 

利用者のプライバシーについて(第十二条、二十条)

本省令案の第十七条では入居者のプライバシーの確保に配慮した運営を行われなければならないとしながらも、第二十条では状況把握のために原則1日1回以上居室への訪問等を行うこととされています。第十二条第六項ニにおいて、「居室の扉は、堅固なものとし、居室ごとに設けること」とされていますが、入居者が管理できる鍵をつけることは基準に含まれていません。

もちろん、健康状態などによっては、「見守り」をしてほしい入居者の方もいるかもしれません。しかしながら、入居者の求めもないのに「訪問等」の「見守り」を行うことや、居室に入居者が管理できる鍵がないのはプライバシーの侵害です。また、第十六条では基本サービス費という費目で入居者から料金を取ることができるとされていますが、このようなプライバシーの侵害をしてサービス料として人件費等を徴収するのだとすれば、言語道断です。第二十条は削除し、居室の扉に入居者が管理できる鍵をつけることを基準に含めるべきです。

 

金銭管理について(第二十六条)

第二十六条では、本人が希望した場合、施設側が一定の条件をもとに金銭管理を行うことを認めています。しかし、本人の同意が前提とはいえ、医師や裁判所等の専門家/組織の判断を経ずに、金銭管理を行うのは人権という観点から大きな問題があります。

もちろん、中には金銭管理が自分で難しく、第三者の助力を得たいと考える人もいるでしょう。しかしながら、その場合であっても、医療や法律の専門家と相談の上で、施設運営者とは独立した第三者に依頼するのがよいのではないでしょうか?住まい、食事、日常的な収支といった生活全般にかかることを同一の主体(ここでは施設)が管理することは、決して望ましいことではありません。第二十六条は削除されるべきだと考えます。

 

最後に…

そもそも、生活保護法では「居宅保護」が原則とされています。つまり、施設等での生活はあくまで一時的なものであるべきです。しかし、今回の省令案は施設での生活を前提としており、この居宅保護の原則が後退させられてしまうのではないかという懸念があります。

何よりもまず、アパート生活への移行の支援や、日常的な支援が必要な方であっても、施設ではなく在宅のまま希望する支援を受けて生活できるための制度を整備すべきだと思います。その際には、不必要な「支援」をするのではなく、第三者によるチェック体制をつくり、本人の意向に反した対応を防ぐ仕組みを作るべきだと私たちは考えています。

2019年6月21日

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい

理事長 大西 連

東京都新宿区山吹町362番地みどりビル2F

Tel:03-6265-0137 Fax : 03-6265-0307

E-mail: info@npomoyai.or.jp

 

無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準(案)についての意見

 

私たちは、日本国内の貧困問題に取り組む団体として、生活に困窮された方が生活保護などの社会保障制度を利用するにあたっての相談・支援や、安定した「住まい」がない状態にある方がアパートを借りる際の連帯保証人の提供、サロンなどの「居場所作り」といった活動をおこなっている認定NPO法人です。

2001年の団体設立からこれまでに、のべ約3,000世帯のホームレス状態の方のアパート入居の際の連帯保証人や緊急連絡先を引き受け、また、生活にお困りの方から寄せられる面談・電話・メール等での相談は、年間4,000件近くにのぼります。また、無料低額宿泊所等で生活している生活保護利用者の方からの「アパートに入りたい」という相談や、施設環境の悪さや職員等の対応について等の相談も多く寄せられます。

日夜、住まいがない生活困窮者の相談や、無料低額宿泊所等で生活する生活保護利用者からの相談を受ける立場として、「無料低額宿泊所の設備及び運営に関する基準(案)」(以下、省令案)について、下記の意見を提出します。

 

1.無料低額宿泊所の規模について(第十条)

省令案(第十条)では5人以上の人員を入居させることができる規模を有するものでなければならない、と示されているが、そもそも、定員の規模を明示する必要性はあるのであろうか。地域等の事情や人口規模等によって、無料低額宿泊所の規模はさまざまであっていいはずだ。もちろん、居宅保護の原則の通り、住まいがない生活保護利用者がすぐさまアパートを借りることができる支援を整えることは大前提である。とはいえ、5人未満の人員が認められない場合、地方などでは、定員を満たせないために無料低額宿泊所を運営できなくなる可能性があるほか、5人以上の人員の規模にするために、たとえば、複数の自治体等、広域で生活保護利用者を受け入れる、などの可能性がある。これは、結果的に、生活保護利用者のアパート移行の際の妨げになる危険性もあり、5人以上という規模の制限が適切なものであるとは考えられない。5人以上という文言を削除するべきである。

 

2.無料低額宿泊所の設備について(第十二条、第十九条)

省令案によれば(第十二条)、洗面所、便所、浴室、洗濯室又は洗濯場に関して、入居定員に即したものを設けること、とされている。しかし、この「入居定員に即したもの」とは一体、どの程度のものなのであろうか。こういった曖昧な表現では基準を定めた、とは言えないのではないだろうか。より具体的な基準を定めるべきである。

また、入浴について(第十九条)、1日に1回の頻度で提供しなければならない、と記されている一方で、やむをえない事情があり、かつ、事前に入居者に説明をおこなう場合、1週間に3回以上の頻度とすることができる、とされている。「やむをえない事情」にどのようなものがあてはまるのかも明示されておらず、これでは、1週間に3回以上の頻度で良い、とされてしまう可能性もある。また、入浴に関しては、集団(複数人)での入浴となることや、非常に限られた時間内での入浴を施設側に求められることもある。アパートで生活する生活保護利用者であれば自分の望むタイミングで入浴できることを考えると、ここでの基準は極めて低いものである。入浴の機会は最低でも1日1回以上は提供されるべきである。

 

3.居室の床面積等について(第十二条、附則第二条および三条)

省令案(第十二条)によれば、居室の床面積は7.43平方メートル以上、地域の事情によっては4.95平方メートル以上、と提示された。しかし、附則の第三条において、現状でその水準以下の居室面積であっても、新基準への適応に際し、一定の条件を満たせば「当分の間」そのまま利用をすることができるとされている。これでは、現行の狭隘な無料低額宿泊所等の居室の状況を結果的には黙認することにつながりかねない。こういった経過措置は、最低生活保障という観点からも不要なのではないか。仮に、居室基準の一部については附則第二条により経過措置(3年間)を施設運用者のために設置するにしても、附則第三条第一項の経過措置(一定の条件を満たせば「当分の間」そのままでいい)は不必要である。

 

4.解約に関する事項について(第十四条)

省令案には記載がないが、解約に関する事項のなかに、解約金や違約金等を入居者に求めてはならない、等の内容を盛り込むべきである。

 

5.利用料(特に基本サービス料)について(第十六条)

省令案では、利用料として、基本サービス費、入居者が選定する日常生活上の支援に関するサービスの提供に要する費用、が記載されている。(「入居者が選定する日常生活上の支援に関するサービスの提供に要する費用」は日常生活支援住居施設である場合に限る)

ここでいう基本サービス料等の費用の基準が現段階で曖昧であり、施設ごとの「基本サービス」の質についてもばらつきがみられる恐れがある。そして、この費用を生活保護利用者が負担する場合、生活扶助費から支払うのか、何らかの加算のような形で生活扶助費とは別に支給されるのか、明確になっていない。仮に、生活扶助費から支払う場合、これらの費用は、一般のアパートにおいて居宅生活を営んでいる生活保護利用者には発生しないものであり、施設等に入居する生活保護利用者の負担は増大する。もし、こういった基本サービス料等を徴収するのであれば、その基準を明確にすることはもとより、アパートで生活する生活保護利用者と比較したときに生活扶助分の金額が不足しないように、何らかの措置をはかるべきである。

 

6.利用者のプライバシーについて(第十二条、十七条および二十条)

無料低額宿泊所はあくまで一時的な居住の場(第三条)であり、入居者への過度の「見守り」はその入居者の求めがない限りはプライバシーの侵害である。そして、こういった1日1回の居室への訪問等にかかる人件費等を「基本サービス料」として徴収する、などは言語道断である。第二十条を削除した上で、第十二条第六項ニに、居室の扉に入居者が管理できる鍵を設置することを明記するべきである。

 

7.金銭管理について(第二十六条)

省令案では、日常生活に係る金銭管理(第二十六条)についての記載がある。ここでは、金銭管理自体を本人がおこなうことが原則としつつも、本人が希望すれば、施設側が一定の条件をもとに金銭管理をおこなうことを許容する内容となっている。あくまで本人の希望のもとにという制約はあるものの、医師や裁判所等の判断を経ずに金銭管理をおこなうことは人権的な観点からも非常に問題がある。施設側が金銭管理をおこなうことを妨げない第二十六条は削除するべきである。

 

8.全体として

そもそも、生活保護が法上で規定する「居宅保護」の原則が、こういった「施設」での生活を前提とした省令案により、後退するのではないかとの懸念がある。実際に、例えば、都内などで住まいをもたない生活困窮者が生活保護申請をした場合、無料低額宿泊所等での宿泊を事実上、強要されることが多く、「居宅保護」の原則が守られているとは言えない状況がある。安易な施設化は時代に逆行しているとも言える。

施設側に「基本サービス料」「入居者が選定する日常生活上の支援に関するサービスの提供に要する費用」などの費用科目が設定されている時点で、施設側の都合で「日常生活の支援が必要である」と判断される可能性はある。現状では、上記のように、住まいがない生活保護利用者や施設等で生活せざるをえない状況があり、そういった日常生活のサービスを利用したくなくても(必要がなくても)、施設での生活を続けるために(ほかの選択肢がないために)、不必要な支援を事実上、強いられる可能性もある。

施設等での生活はあくまで一時的なものであることに鑑み、「居宅保護」の原則のもと、アパート生活への移行への支援、そして、アパートに在宅のままでの日常生活の支援の在り方について早急に検討し、法整備等の必要な措置を講ずることが必要である。

また、日常生活の支援が必要であるかどうかの基準について明確にし、また、医師等の専門家による判断や第三者的なチェック機能などを構築し、不必要に日常生活の支援をおこなうことはもとより、本人の意思に反した支援の強要を防ぐための措置を講ずるべきである。

 

以上

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