7月10日、NPO法人もやいでは「生活保護制度の改善および適正な実施に関する要望」と題した要望書を厚生労働省に提出しました。本要望書は、生活保護制度について包括的に扱ったものですが、ここでは重点項目の一つ、「生活に困窮されている性的マイノリティ(※1)の方への対応について」という部分について焦点を当てて解説したいと思います。

※1 ここではいわゆる「LGBT」に含まれない方々を念頭において「性的マイノリティ」という表現を用いています。

厚労省の担当者に要望書を手渡す。

要望の内容

まず、要望の内容について該当部分を抜粋して紹介します。

なお、要望書全体はこちらから見ることができます。

生活保護制度を利用する者の中には性的マイノリティも少なからずいることは言うまでもない。しかしながら、現在の生活保護制度においては、その法律や政令・省令等にも性的マイノリティに関する記述はなく、現時点で可能な限りの合理的対応がなされている一方で、性的マイノリティが生活保護制度を利用するにあたって相談時や施設等利用時、医療機関利用時など、さまざまな局面で不利的を被るという事態が生じていると考えられる。当団体でもこうした実態の調査の実施を検討しているところであるが、厚生労働省による実態調査が待たれる。以上の点を踏まえ、次の通り要望する。

第一に、生活保護を利用する性的少数者がどのような配慮を必要としているのか、被保護者のプライバシーに十分配慮したうえで、その実態を調査し、結果を公表すること。

第二に、実態調査と合わせて、当事者や支援団体、研究者等に対するヒアリング等を実施すること。

第三に、実態調査とヒアリング等を踏まえて、性的少数者に対する適切な対応がなされるよう、必要に応じて制度を改正すること。

第四に、以上のことと並行して、性的少数者に関する研修をすべての福祉事務所で実施し、現業員および査察指導員の資質の向上に努めること。

 

なぜ性的マイノリティについての要望なのか

要望書全体を読んでいただくとわかるように、生活保護制度にはさまざまな課題があります。そのなかでも〈もやい〉は上記の内容を重点項目の1つにあげています。なぜでしょうか?

生活保護制度に関する議論の中では、例えば生活扶助基準の切り下げなどさまざまな問題に焦点が当てられてきました。しかしながら、性的マイノリティへの対応に焦点があてられたことはほとんどなく、十分に問題として認識されてこなかったように思います。実際、厚労省はこの4月から医療券の性別欄の記載について性的マイノリティに配慮した運用を認める通知(※2)を出したものの、制度全体を視野に入れた動きはまだ見られません。〈もやい〉としては、厚労省に性的マイノリティの存在を前提とした制度として生活保護制度を見直してほしいという思いがあります。

※2 「生活保護法による医療券等の記載要領について」(平成 11 年 8 月 27 日社援保第 41 号厚生省社会・援護局保護課長通知)の改正案において、1-(7)で「なお、被保護者本人から戸籍上の性別を記載してほしくない旨のもうしでがあり、やむを得ない理由があると保護の実施機関が判断した場合は、欄外又は裏面を含む医療券全体として、戸籍上の性別が指定医療機関で容易に確認できるよう配慮すれば、性別の表記方法を工夫しても差し支えない」という文言が追加されました。

要望書提出後の議論の様子

「制度」の在り方と性的マイノリティとの関係に焦点を当てることにはきわめて重要な意味があります。例えば、現在の生活保護制度を利用する際、いたるところで男女の二分法を前提とした仕組みがあります。最もわかりやすい例として、被保護者は多くの場面で「男」「女」のいずれかのカテゴリーのもとで自らを提示しなくてはなりません(様々な書類に「男」「女」と記入するなど)。このことは、割り当てられた性別と性自認が一致しないトランスジェンダーや、男女のカテゴリーに当てはまらない性自認を持つ人にとって、大きな心理的負担となったり、自らの(ジェンダー・アイデンティティの)在り方が否定されていると受け止められることがあります。

また、居所がない状態で制度利用を開始した場合、アパートに移るまでの一時的な待機場所を利用することがあります。しかし、これも「女性専用」/「男性専用」の施設しかなく困ったり、プライバシーが十分に保障されない環境での生活を余儀なくされることがあります。

こうした事態に対して、現場でさまざまな工夫がなされることもありますが、実質的な運用だけでなく制度の在り方そのものを、性的マイノリティの存在を前提としたものへ、また一人ひとりの希望にできるだけ添えるものへと変えていく必要があると私たちは考えています。

 

今後の望ましい制度の在り方とは

性的マイノリティと一口に言っても、当然さまざまな方がいらっしゃいますし、生活保護制度を利用している上で、私たちが把握している以上に多様な経験をされているはずです。制度の改善について議論する場である審議会等には残念ながら当事者の声が届けられることは多くありません。厚労省には、有識者や支援団体にとどまらず、実際に制度を利用されている性的マイノリティの声を直接聞く姿勢をぜひ見せてもらいたいと考えています。

厚労省に生活保護制度に関する包括的な要望書を提出しました!

2019.07.12

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