認定NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい

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もやいブログ

2019.12.13

生活相談・支援事業おもやいオンライン

生活保護の基準を考える

生活相談・支援事業担当の結城です。
今回は生活保護の「生活扶助」基準について、思うところを書いてみたいと思います。
2018年に生活扶助基準の「見直し」が行われ、
2018年~2020年の3年をかけて扶助額が変更されていきます。
今年の10月にも扶助額が変更となり、
〈もやい〉にも支給額についてのご相談が多く寄せられました。
今年は消費税の増税に合わせて補正を行ったため、
なおさら複雑になり、困惑された方も多かったことと思います。

現在の基準の見直し方法

2018年の基準見直しについては私たち〈もやい〉も含めて
多くの個人・団体から批判が行われていました。
その中でも一番焦点が当てられていたのは、
基準の決め方が果たしてこれでよいのだろうか、という問題だったと思います。

具体的には、現在の生活扶助基準の見直しは、
生活保護利用者を除く低所得世帯(収入順に並べて10分割して、一番収入が低いグループ)が
日々使っている金額(消費支出)と比較して行われています。
これを「水準均衡方式」と言います。

生活保護基準の決め方はこれまでずっと同じだったわけではありません。
戦後しばらくは、最低生活を営むのに必要な個々の品目を
一つ一つ積み上げて最低生活費を算出したり、
必要な栄養を取るための食品を買うために必要な金額を考慮した方法がとられてきました。
しかし、経済成長の著しい当時の日本において、
生活保護世帯とその他の世帯ではどんどん格差が広がっていくのが問題視され、
1965年からは非生活保護世帯の消費の水準と比較し、
格差を縮小させるように保護基準が決められるようになりました(格差縮小方式)。
その後、1984年に「水準均衡方式」という方式に変更され、今に至ります。
これは、生活保護世帯とその他の世帯との格差が縮まってきたために、
両者が「均衡」するように調整するという考え方に基づいています。

なぜ「水準均衡方式」は問題なのか

格差縮小方式以降の特徴というのは、
生活保護を利用していない世帯の消費水準と比較しながら
基準の見直しを行うというところにあります。
この方式は、日本に住んでいる人の所得が全体的に向上している時であれば、
問題は少なかったかもしれません。
しかし、保護を利用していない低所得世帯の消費水準が下がれば、
基準もまた下がっていきます。
そして現在の日本では生活保護制度の捕捉率は2~3割と言われており、
保護基準以下の収入で生活している人が大勢いると考えられます。
このような状況で水準均衡方式を使うと、
どんどん基準が下がっていくのではないかということが懸念されます。
そしてその時、果たして生活保護の基準は
「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するものになっているのだろうか、
そもそも「健康で文化的な最低限度の生活」とは何か、
ということが(改めて)問題になります。

利用者の実態を踏まえた議論を

現在、厚生労働省では首都大学東京の阿部彩教授、
日本女子大学の岩永理恵准教授、慶應義塾大学の駒村康平教授および山田篤裕教授、
オブザーバーとして国立社会保障・人口問題研究所の渡辺久里子氏らの有識者をメンバーとして、
「生活保護基準の新たな検証手法の開発等に関する検討会」という会議を開いています。
この会議では、水準均衡方式の問題点を踏まえて、よりよい基準の検証方法が議論されています。
そこでもやはり「最低限度の生活」をどのように考えればよいのか、
というのが重要な論点となっています。
これには絶対の答えというものはないと思います。
しかし、今までの基準の決め方は制度を利用している人びとが
実際に今どのような生活をしているのかといった実態や、
「最低限度の生活」というものをどうとらえているのかということとを
十分に考慮してこなかったように思います。
もちろん、上記の「有識者」の中にはこうした問題意識を持っている委員もおり、
今後上記の会議のなかで、MISといった従来のマーケットバスケット方式を改良したものや、
アンケートなどを用いて「最低限必要な所得」についての一般的な考え方を
考慮に入れる方法などが議論されていくでしょう。
われわれも、今後、基準の決め方を検討していく際には
こうした点に目が向けられていくべきではないかと考えています。(結城)

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