認定NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい

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もやいブログ

2022.6.17

おもやいオンライン

参与として1年、「孤独・孤立対策」のこれから

 以前のおもやい通信でもご報告をしていましたが、2021年に当時の菅義偉総理より
内閣官房孤独・孤立対策担当室政策参与に任命され、1年が経ちました。
この1年を振り返り、また、参与としての2年目の活動やその内容について報告したいと思います。

コロナ禍で「孤独・孤立」が顕在化

 コロナ禍が長引くなか、生活困窮者は増加の一途をたどっています。
〈もやい〉で毎週土曜日に新宿都庁下でおこなっている相談会の活動では、
食料品配布に並ぶ人が2020年4月に100人ほどであったのが、2022年1月には500人を突破しました。
今後の見通しがたたない状況が続いています。それは生活困窮者支援の現場だけの話ではありません。
自殺者数の増加、DVや虐待件数の急増など、生きづらさが拡大し、社会を閉塞感が覆っています。

 こうした事態を受け、2021年2月に、菅義偉総理(当時)のもと、
孤独・孤立対策担当大臣が置かれ、内閣官房に孤独・孤立対策担当室が設置されました。
同2月にはNPOで支援に携わるメンバーなどを招いて「孤独・孤立を防ぎ、不安に寄り添い、
つながるための緊急フォーラム」を開催*1
3月には「孤独・孤立対策に関する連絡調整会議」が開催され、
ソーシャルメディアの活用、実態把握、孤独・孤立関係団体の連携支援の
3つのタスクフォースが立ち上がりました。

 また、孤独・孤立対策に取り組むNPO等への支援として
①生活困窮者支援等・自殺防止対策、
②フードバンク支援・子ども食堂への食材提供、
③子どもの居場所づくり、
④女性に寄り添った相談、
⑤住まいの支援、
として約60億円の予算が計上されました。

現場での知見を政策につなげたい

 僕は同6月1日付で、元厚労省事務次官の村木厚子氏とともに、政策参与に任命されました。
〈もやい〉をはじめ、現場での支援活動はもとより、生活困窮者支援をベースにしつつも
幅広に社会保障や人権の問題について発信し、政策提言していることが任命の理由であると思います。
 政府の政策に関しては批判的な立ち位置で論陣をはることが多いので、
参与に任命されることは僕個人としてもかなり意外なことでしたが、
現場での知見を政策につなげていく機会でもありますので引き受けました。

 僕の登用も含め、官民の連携をどのように実現していくのか、
NPO等のメンバーの声を聞いて施策を実現していく、
というのは政府にとっても大きな動きだと言えると思います。

2021年度中の政府の動き

 立ち上がった3つのタスクフォースのうち「ソーシャルメディアの活用」としては、
8月にチャットボットで相談先や支援制度を検索できる
ホームページ「あなたはひとりじゃない」*2を公開しました。
まだベータ版でありながら、2022年3月末までの約7か月で
のべ130万人がアクセスするなど、一定の成果を挙げています。

 「実態把握」については、12月に全国調査を実施し、
後述しますが、2022年4月にその結果が公表されました。
「孤独・孤立関係団体の連携支援」としては、
2022年2月に「官民連携プラットフォーム」が立ち上がり、
NPOや社会福祉法人、自治体など約200以上の団体が参加して
少しずつ議論が始まっているところです。

 また、2021年の12月には、「重点計画」が策定されました。
 そこには次のようなことが明記されています。孤独・孤立は誰にでも起こり得るものであり、
個人ではなく社会全体で対応しなければならない問題であること。
「望まない孤独」「孤立」について様々なアプローチや手法により対応する必要があること。
「予防」の観点が重要であること……。

 さらに、当事者の目線や立場に立って施策を推進すること、
当事者の家族等も含めて支援すること、タイムリーな情報発信に声を上げやすい環境整備、
切れ目のない相談支援や、見守り・交流の場や居場所づくりを確保し、
人と人との「つながり」を実感できる地域づくりをおこなうこと、
官民の連携や政府、自治体等の孤独・孤立対策の推進体制の整備などが盛り込まれています。

 まだ抽象度の高い書きぶりとなっていますが、
今後、どのように具体的な政策に落とし込んでいくのか、
政策参与としての役割の一つとも言えます。

初の「実態調査」で見えたもの

 先述しましたが、2022年4月に、政府としては初となる孤独・孤立に関する全国調査である
「人々のつながりに関する基礎調査(令和3年)」*3の調査結果が公表されました。
全国の満16歳以上の人に、住民基本台帳を母集団として20,000人を無作為抽出し、
回答を得た11,867人のデータを集計したものです。

 この調査では「直接質問」と「間接質問」という方法をとっています。
直接質問は文字通り、どの程度の「孤独」であるのかを直接的に質問するものです。
間接質問は、「UCLA孤独感尺度」の日本語版*4の3項目短縮版に基づいて回答をスコア化し、
その合計スコアで評価をする方法をとりました。
要するに、「孤独」かどうかを直接聞くか、間接的に判断するか、ということです。

 直接質問で、孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人は4.5%、
「時々ある」が14.5%、「たまにある」が17.4%。何らかの「孤独」を抱えている人が36.4%
ということが明らかになりました。

 間接質問でもスコアが7点以上となったのが43.4%であり、
どちらの評価でも約4割の人が「孤独」を抱えている、という結果になりました。

 年代別だと20代、30代が「孤独」を感じる人が多く、
世帯年収をみると、年収が低くなるほど孤独を抱える人の割合が高くなります。
就業の形態でも失業中や派遣社員など不安定な働き方の人が、
孤独感を感じる割合が高い、というデータとなっています。

 「孤立」の状況については、社会的交流について、
「同居していない家族や友人たちと直接会って話すことが全くない」が11.2%、
月に1回未満が15.2%、月に1回程度が13.8%となり、約4割の人が、
同居家族以外の家族や友人と月に1回程度以下しか直接話す機会がない、
ということも明らかになりました。

 今回の調査結果を受けて、どのような「孤独・孤立対策」をおこなっていくべきか、
政府として検討していく流れになります。
調査で得られたデータの精度や、全国調査で抜け落ちている点など、課題はありますが、
このような調査がおこなわれたこと自体に意義があると思います。

「孤独・孤立対策」のこれから

 総理が交代し、岸田文雄総理になったあとも、
引き続き、孤独・孤立対策は政府の重要施策に入っています。
年末には、岸田総理が〈もやい〉事務所に来訪し、「車座」での意見交換もおこないました。

 僕の政策参与の任期は1年でしたが4月に延長されました。
緊急経済対策、そして、予想される補正予算の編成やさらには
「骨太の方針」「概算請求」と、夏に向けて政策的な打ち出しのタイミングが続きます。
また、「孤独・孤立対策」を既存の政府の施策との関係性のなかでどう位置付けていくのかも
中長期的に必要な仕事になります。

 「孤独・孤立対策」はまだ始まったばかりですが、
必要な人に支援を届けられる施策群になるように、
引き続き、役割を果たしていければと思っております。

〈もやい〉の活動と並行しながらですが、
2年目の政策参与の仕事もその任にある限り、
しっかり取り組んでいきたいと思います。(大西)

●昨年12月の「車座」。右から村木厚子さん、大西連、岸田文雄総理、そして支援団体の仲間ら

*1
孤独・孤立に関するフォーラムはその後、2021年にはテーマを変えて10回開催されている。

*2 
内閣官房孤独・孤立対策室「あなたはひとりじゃない」:https://notalone-cas.go.jp/

*3
内閣官房孤独・孤立対策担当室「人々のつながりに関する基礎調査(令和3年) 調査結果の概要」https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodoku_koritsu_taisaku/zittai_tyosa/tyosakekka_gaiyo.pdf

*4 
舛田ゆづり、田高悦子、他(2012)「高齢者における日本語版 UCLA 孤独感尺度(第3版)の開発とその信頼性・妥当性の検討」日本地域看護学会誌.15(1)(25-32)

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