<最前線で見えるもの>支援現場から見える日本社会ー安心して医療が受けられる社会を(ボランティア医師・谷川智行)

支援現場は様変わり 路上生活者は「少数派」

 長引くコロナ災害で、生活困窮者支援の現場は様変わり。コロナ前、東京都庁前の食料配布に並ぶ方は60〜70人ほどで、安定した住まいのない方がほとんどでした。コロナ後は200人、300人と増え続け、今年4月には700人を越えました(2023/5/1・723人)。当初は、「時短営業でシフトが減らされた」「お店がつぶれた」「派遣が切られた」など、飲食店や建設現場で非正規の仕事をしていた人たちが目立ちました。

 最近は、年金削減、物価高騰の影響を受け、年金生活者、生活保護利用中の方、フルタイムで働いている現役世代の方、「まさか自分が炊き出しに並ぶとは」と語る若い人、家族連れ、ベビーカーを押す若いお母さんなどが並んでおられます。路上生活をされている男性が「自分たちの方が少数派だな」と仰ったのが印象的でした。

「生活保護だけは…」とためらう方

 生活保護制度の利用を躊躇する方は多く、「それだけは嫌」と涙を流す方もおられます。自民党の国会議員を先頭にした生活保護へのバッシングを覚えている方も多いと思います。自民党が政権を取り戻す際の選挙公約では、「生活保護の不正受給をなくす」ことが重要政策として掲げられ、政治的にも利用されました。「自己責任」論とセットで生活保護に対するスティグマ(負の烙印)が意図的につくられ、助けを求めることを許さない空気が社会を覆いました。その影響は計り知れません。収入が途絶え住まいまで追われた状態でもなお、「いよいよ本当に困ったら相談させてください」と相談会を後にする方が多数おられます。

最低生活費認定額には医療・介護の負担も考慮

 役所に生活保護の相談に行った方が、適切に対応されず追い返される事例は、残念ながらまだ少なくありません。最低生活費認定額の計算で医療費が考慮されず、生活保護の対象外と説明された方もいました。年金額が最低生活費をわずかに越えていましたが、この方には治療を中断している病気がありました。「いま病院に行っていないから医療費はゼロ」ではなく、「必要な治療にかかる医療費」が計算されなければなりません。一度、諦めさせられた方は制度から遠く引き離されます。私たち支援者も、そのことを肝に銘じて対応していかなければと思います。

受療権が保障されていない社会

 ホームレス状態の方だけでなく、非正規労働者でも保険証がない人は珍しくありません。少なくない非正規労働者が会社の医療保険に入れず国民健康保険への加入を求められます。家族構成にもよりますが、保険料は約2倍。保険料が払えない人も多く、加入手続き自体を躊躇する人も少なくありません。

保険証がなければ、医療機関を受診するのは困難です。高い保険料を必死で払い保険証はあっても、医療費の窓口負担が重いため受診を諦める方も多いです。後期高齢者の医療費窓口負担が2割に引き上げられたことで病院に行けなくなったという相談もあります。日本は、医療を受ける権利(受療権)が保障されていない社会だと痛感します。

「自己責任」で追い詰める社会を変えなければ命は守れないー分断でなく包摂と連帯でこそ

 派遣先を転々とするなか、職場の激しいパワハラで傷つき「役に立たない自分は生きている意味がない。死にたい」と相談に来られた方は、生活保護の利用、病院受診を繰り返し勧めても、「私は働きたいんです」と泣きながら訴えられました。死にたいほど辛くても自分で何とかしなければと強迫されているようでした。

 命を大切にする社会を実現するには、人々の人生を冷酷に切り刻み、人に頼ることも許さず「自己責任」で追い詰める日本社会と、それをもたらした政治を変えることが不可欠です。分断ではなく包摂と連帯によってこそ、希望ある未来に繋がると確信しています。(ボランティア医師・谷川智行)

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