認定NPO法人 自立生活サポートセンター・もやい

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もやいブログ

2020.3.11

おもやいオンライン

“住まい結び”事業から 見えてきたこと ~多様な相談ニーズに応えるために~

 2018年5月に新たな事業として立ち上がった “住まい結び事業”。
これまでに149名からご相談があり、うち42名を
新たな“お部屋と結ぶ”ことができました(20年2月4日現在)。

 生活相談にお見えになった方のみを対象に事業を進めていますが、
実にさまざまなご相談が寄せられています。
 本稿ではその一部をご紹介しつつ、
3年目を迎える事業がどんな役割を担うべきなのか、考えたいと思います。
 なお、文中の具体例については個人情報への配慮から一部修正のうえ例示しています。

家族からの自立

 家族との距離を変えたいと、ご自身の住まいを確保したうえで
生活保護の申請をする方が多くおられます。
 具体的には、DVから避難して安心できる住まいを探したいとか、
長年仕事ができないまま実家に住んでいるが親との折り合いが悪く
実家から出たいとか、パートナーと関係が悪化しているが
経済的に離れることができないなどのご相談を受けます。

 身体的・精神的な要因から単身で生計維持できるほどは働けず、
他方で保護申請と同時に施設に入って暮らすことにも不安を覚え……。
その多くは、収入面で保証会社が利用できず、
他方で家族に保証人を依頼することも難しい、という中での住まい探しになります。

 就労していた頃の貯えが尽きる前に、
あるいは最後に「初期費用」だけ負担してくれと家族に頼み、
実家を出て次のステップに進もうという方も多くおられます。

●物件間取り図。必ずしも相談者の希望にすべて沿った物件にご案内できるとは限らず、心苦しい

家族環境の変化

 同じ家族でも、その置かれた状況が変わったことで、
住まい探しを余儀なくされる方もいます。
具体的には、長年の介護を終えたら仕事探しが難しい年齢になっていた、
お連れ合いが高齢となり施設に入ったために一人暮らしになった、
子どもが自立して別世帯になり一人暮らしになったなどのご相談があります。

 生活保護利用の場合、世帯人数が減って現在の家賃が
住宅扶助上限を上回ることになり、転宅を余儀なくされることも多く、
また子どもの成長で部屋が手狭になった場合には扶助金額は変わらないので、
「古い」「陽当たりが悪い」といった条件の悪い物件しか検討できないケースもありました。

リスタートのために

 その一方で、身体的に、経済的に困難な状況から
前に進むお手伝いをするケースもあります。
 たとえば、ご自身で契約したアパートが貧困ビジネスの劣悪なアパートだったため、
心身ともに弱ってしまったとか、
アパートの取壊で退去を求められているが、
うつ症状のためアパートを探せないとか、
20年のひきこもり生活を経てアパート生活を始めたいといったケースがありました。
 アパートの入居審査では「過去・現在」が評価されるため、
社会に戻ろうとしても前に進めない方も多く、周辺のサポートが求められます。

住まい結び事業が果たすべき役割は

 住まい相談に来られる方の多くはご自身だけでは解決が難しい
さまざまな「課題」を抱えています。
都内では高度成長期に建築されたアパートの取壊し時期を迎え、
長年住んでいた高齢の方の転居先探しが極めて厳しい状況にあります。
その他、長期入院していた方が退院を許可されたのに部屋が見つからず退院できない、
外務省の外郭団体からの最低限の支援だけで、
就労もできなければ生活保護も利用できない難民認定申請中の方。
抱える「課題」は千差万別です。

 この間、数多の不動産業者に問合せを重ね、
多くの理解ある業者さん、家主さんと出会い、
入居された方から「ゆっくり静かに過ごせています」といった感謝の声も寄せられています。
 他方で、まずはご本人の「権利」を尊重し、
個々の相談者のご希望(エリア・環境など)に見合う物件を
一から探すという〈もやい〉スタイルの部屋探しは、多くの時間・手間を要します。
せっかくご相談にお見えになっても、〈もやい〉からの紹介を待ちきれずに
「貧困ビジネス」の不動産屋の仲介でアパートに入り、
ほどなく「ひどい部屋」について相談に来られた方もおられます。
 当初考えていた地域の社会資源(たとえば地域包括事業所、保健師、支援団体等)との
繋がり作りのお手伝いにも手が回らず、
他方で〈もやい〉単体でなし得ることの少なさ、限界も痛感しています。

●内見可能な物件を調べている澤田。相談者が生活保護利用者であることを伝えると、実際に内見できるのは、ネット上に「内見可」とある物件のうち3件に1件というのが現実

次年度の住まい結び事業の方向性

 2020年度、住まい結び事業ではスタッフ1名を増員し、
①引き続き個別の相談・仲介に対応しつつ、
②生活困窮者の住まいの問題や改善点などについて
広報するとともに省庁等への政策提言を強化し、
③各所の大家さん・不動産屋さん・支援者(団体)・
行政機関等との連携・ネットワーク作りを進めていきたいと考えています。

 特に③については、〈もやい〉が20年の活動で
培ってきた生活保護についての知見の共有を進めることで、
大家さんや不動産屋さんに理解を深めていただき、
入居のハードルを少しでも下げていきたいと考えています。
そして、いずれは〈もやい〉への相談者には希望するエリアの不動産屋さんを紹介し、
入居後も地域の方々のサポートを受けながら安心して暮らせる、
そんな環境・体制の実現を目指したいと考えています。

 住まい結び事業には一定の事業収入(仲介手数料)はありますが、
多くの皆さまのご寄附があって初めて成り立つ事業であることは変わりません。
この2年間の実体験を踏まえると、〈もやい〉としてまさにいま取り組むべき課題と考え、
財政的に厳しい昨今ではありますが、スタッフ増という決断をしました。

 皆さまにおかれましては、なおいっそうのご支援・ご声援を賜れれば幸いです。(土田)

●契約が完了したり対応が終了した方の記録を綴じたファイル。事業スタートから2年で大冊のこれらも5冊を超えた

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